九州

脇田

1. 「脇田」停留場とは? – 日常と利便性が交差する、谷山線の要衝

鹿児島市内を網の目のように走る鹿児島市電。その中でも最長の路線距離を誇る1系統(鹿児島駅前 – 谷山)において、多くの市民の日常的な足として重要な役割を果たしている停留場の一つが「脇田(わきだ)」です。この停留場は、鹿児島市南部の鴨池・郡元エリアと谷山エリアを結ぶ幹線上に位置し、周辺に広がる住宅地と、大型商業施設や学校、医療機関などが混在する地域住民にとって欠かせない生活拠点となっています。

「脇田」という地名は、この地域の歴史を反映したものであり、停留場自体も長年にわたり地域住民の暮らしを支え、街の発展を見守ってきました。ラッシュ時には通勤・通学客で賑わい、日中には買い物客や所用で訪れる人々が行き交う、活気ある停留場です。

他の主要な観光地に隣接する停留場とは異なり、脇田停留場はより地域に密着した、市民の「普段使い」の色合いが濃い場所と言えるでしょう。しかし、その利便性の高さと周辺施設の充実ぶりは、鹿児島市南部における交通の要衝としての重要性を示しています。本稿では、この「脇田」停留場について、その基本情報から歴史、構造、周辺情報、利用状況、そして今後の展望に至るまで、詳しく掘り下げて解説していきます。

2. 基本情報

所在地: 鹿児島県鹿児島市宇宿(うすき)三丁目 付近

両ホームとも、鹿児島県道217号(産業道路)の中央分離帯上に設置されています。

所属路線: 鹿児島市交通局(鹿児島市電)谷山線

停留場番号: I22 (I: 第一期線・伊敷線・谷山線系統)

構造: 相対式ホーム2面2線

道路(県道217号)の中央に、上下線それぞれ独立したホームが設置されています。

隣の停留場:

鹿児島駅前方面:宇宿一丁目 (I21)

谷山方面:笹貫 (I23)

運賃:

大人:190円(小児:90円)の均一運賃制(2024年時点)

支払い方法:

現金(降車時)

ICカード「RapiCa(ラピカ)」(乗車時・降車時にタッチ)

全国相互利用交通系ICカード(Suica, PASMO, ICOCAなど)(乗車時・降車時にタッチ)

クレジットカード等のタッチ決済(Visa, JCB, American Express, Diners Club, Discover, 銀聯)(降車時にタッチ)

一日乗車券、二日乗車券など

3. 歴史:谷山線の延伸と地域の発展と共に

脇田停留場の歴史は、鹿児島市電谷山線の延伸と、周辺地域の都市化の歩みと重なります。

谷山線の延伸と脇田の開設:
鹿児島市電谷山線は、市街地から南部の谷山地区を結ぶ重要な路線として段階的に延伸されてきました。脇田停留場は、1950年代後半から1960年代にかけての谷山線延伸期に開設されたと考えられます。正確な開設年月日は資料により確認が必要ですが、1959年(昭和34年)に鴨池から郡元(現在の鹿児島市交通局本局・車庫がある場所とは異なる、当時の終点)までが開通し、その後さらに南へ延伸していく過程で設置された、比較的歴史のある停留場の一つです。

住宅地・商業地の発展:
停留場開設当時は、現在ほど宅地開発が進んでいなかった可能性がありますが、市電の開通は周辺地域の発展を促す大きな要因となりました。昭和後期から平成にかけて、周辺には住宅地が急速に広がり、人口が増加。それに伴い、生活利便施設や商業施設の需要も高まりました。脇田停留場は、新たに形成された住宅地に住む人々の通勤・通学や買い物のための重要なアクセスポイントとして機能するようになります。

イオン鹿児島鴨池店(旧ダイエー)の影響:
特に停留場の利用動向に大きな影響を与えたと考えられるのが、近隣にある大型商業施設、現在の「イオン鹿児島鴨池店」(旧:ダイエー鹿児島店、ハイパーマート)の存在です。1990年代に開業したこの大型店は、広域からの集客力があり、脇田停留場はその最寄り駅の一つとして、買い物客の利用を飛躍的に増加させました。

軌道改良と施設の更新:
谷山線は、長年にわたり改良が重ねられてきました。単線区間の複線化、軌道敷の緑化、そして近年では、架線柱を線路の中央に集約するセンターポール化が脇田停留場を含む区間で実施されました。これにより、道路景観が向上し、架線柱が歩道空間を圧迫することがなくなりました。停留場設備自体も、老朽化に伴い上屋やベンチの更新、案内表示の改善、バリアフリー化への対応などが段階的に進められてきました。

4. 停留場の構造と設備:センターポールが印象的な都市型電停

脇田停留場は、交通量の多い県道の中央に位置しながらも、近年の改良により比較的整備された姿を見せています。

ホーム:

形状: 谷山方面行き、鹿児島駅前方面行き、それぞれ独立した相対式ホームです。センターポール化された区間の特徴として、ホーム幅は比較的確保されていますが、それでも朝夕のラッシュ時には混雑が見られます。ホーム長は連接車(ユートラムなど)が停車可能な長さを有しています。

上屋(屋根): 各ホームの中央付近に、比較的近代的なデザインの上屋が設置されています。支柱はセンターポールと一体化している箇所もあり、すっきりとした印象を与えます。上屋はホームの一部を覆う長さで、雨天時などは乗車位置によって濡れることもあります。

ベンチ: 各ホームの上屋下に、数人が座れるベンチが設置されています。

安全設備: ホーム端には安全柵が設置されています。特に県道側の柵は、車両との接触を防ぐため、しっかりとした構造になっています。視覚障がい者向けの点字ブロックもホーム上に敷設されています。

床材: コンクリートまたはタイル舗装が中心で、乗降口付近は滑りにくい素材が用いられています。低床車両対応のため、一部嵩上げやスロープが設置されており、ホームと車両間の段差・隙間が小さくなるように配慮されています。

センターポール: 脇田停留場を含む谷山線の一部区間では、架線を支える柱が線路の中央(上下線間)に集約された「センターポール方式」が採用されています。これにより、道路両側の歩道空間から架線柱がなくなり、景観が改善されるとともに、歩行者や自転車の通行スペースが広がる効果があります。停留場自体のデザインも、このセンターポールと一体化した設計となっている箇所が見られます。

案内表示:

停留場名標識: センターポールや上屋の側面に取り付けられています。標準的なデザインで、停留場名(ひらがな・漢字・ローマ字)、停留場番号(I22)、隣の停留場名が記載されています。

時刻表: ホーム上屋の柱や壁面に掲示。平日・土日祝日別。

路線図・運賃表: 市電路線図、運賃案内、ICカード利用案内などが掲示されています。

周辺案内図: イオン鹿児島鴨池店やバス停など、主要施設への簡単な案内図が設置されている場合があります。

接近表示器: 電車の接近状況、行き先、遅延情報などを表示する電光掲示板またはLCDディスプレイが設置されています。リアルタイムの情報提供により、利用者の利便性が向上しています。

バリアフリー:

ホームへのアクセス: 停留場は道路中央にあるため、信号機付きの横断歩道を渡ってアクセスします。横断歩道の整備状況(音響信号の有無など)も重要です。

ホーム上の段差・隙間: 低床車両「ユートラム」「ユートラムII」「ユートラムIII」の導入が進んでおり、これらの車両と対応するホーム部分(嵩上げ箇所)では、段差や隙間が少なく、車椅子やベビーカーでも比較的スムーズに乗降が可能です。ただし、従来型の高床車両もまだ運行されているため、乗車する車両の種類によって乗降のしやすさは異なります。ホーム全体が完全にフラットではありません。

点字ブロック: ホーム上に設置されています。

その他設備:

照明設備: 夜間の安全確保のため、ホーム上およびセンターポールに照明が設置されています。

広告: 上屋や柵などに広告が掲示されていることがあります。

5. 運行状況と時刻表:谷山方面への生活路線の中核

脇田停留場には、鹿児島市電1系統のみが停車します。

運行系統: 1系統(鹿児島駅前 – 谷山)

鹿児島駅前から、天文館通、高見馬場、鹿児島中央駅前、郡元などを経由し、谷山へ至る、鹿児島市電の最主要路線です。市の中心部と南部住宅地を結ぶ大動脈となっています。

運行頻度:

ピーク時(朝夕ラッシュ時): 約5~7分間隔程度で運行され、通勤・通学客で非常に混雑します。

日中: 約7~10分間隔程度で運行。買い物客などの利用が中心です。

早朝・深夜: 運行間隔は長くなります。

※接続するJR指宿枕崎線のダイヤなどを考慮した運行がなされている場合もあります。

始発・終電 (目安):

谷山方面: 6時台前半 ~ 23時過ぎ

鹿児島駅前方面: 6時頃 ~ 22時台後半

※正確な時刻は必ず鹿児島市交通局の公式ウェブサイトや時刻表でご確認ください。

所要時間 (目安): 道路状況により変動します。

宇宿一丁目まで: 約2分

笹貫まで: 約2分

郡元まで: 約5~7分

鹿児島中央駅前まで: 約15~18分

天文館通まで: 約20~25分

鹿児島駅前まで: 約25~30分

谷山まで: 約8~10分

乗換情報:

市バス・各社バス: 停留場周辺の県道217号線沿いに**「脇田」バス停**があり、多くのバス路線が発着しています。

鹿児島市営バス、鹿児島交通、南国交通などが運行。

谷山方面、市街地方面(天文館、鹿児島中央駅、鹿児島駅など)、桜島口方面、伊敷・吉田方面など、多方面への乗り換えが可能です。

市電とバスは競合する区間もありますが、バスしか行かない地域へのアクセスや、乗り換えによる時間短縮など、補完関係にもあります。

ICカード「RapiCa」を利用した場合、90分以内の市電・市バス間の乗り継ぎで、2回目の乗車運賃が割引(大人160円引き、小児80円引き)となる制度があります(一部路線を除く)。

JR指宿枕崎線: 最寄りのJR駅は宇宿駅または谷山駅になりますが、どちらも脇田停留場からは徒歩で15~20分程度の距離があり、直接的な乗り換えはやや不便です。バスを利用してアクセスするのが一般的です。

6. 周辺情報とアクセス:暮らしを支える施設が集積

脇田停留場の周辺は、住宅地に加えて、生活に密着した様々な施設が集まる利便性の高いエリアです。

商業施設:

イオン鹿児島鴨池店: 停留場の北東側に位置し、徒歩約5~7分。食料品、衣料品、日用品、専門店、レストラン、映画館(鹿児島ミッテ10)などを備えた大型ショッピングセンターであり、この地域の商業核となっています。脇田停留場利用者の主要な目的地の一つです。

周辺の店舗: イオンの周辺や県道沿いには、飲食店(ファミリーレストラン、ラーメン店、カフェなど)、コンビニエンスストア、ドラッグストア、銀行(鹿児島銀行、南日本銀行の支店など)、各種クリニックなどが点在しています。

学校:

鹿児島市立鴨池中学校: 停留場の西側に位置。

鹿児島県立鴨池高等学校: 中学校に隣接。

鹿児島市立宇宿小学校: 停留場の南西側に位置。

これらの学校への通学で、朝夕は多くの生徒が停留場を利用します。

医療機関:

鹿児島県立鴨池リハビリテーション・精神保健福祉センター: 停留場の西側、鴨池中学校・高校のさらに西に位置。専門的なリハビリテーションや精神保健福祉サービスを提供。

各種クリニック: 内科、歯科、眼科などの個人クリニックが周辺に多数存在します。

公共施設・その他:

鹿児島南警察署 脇田交番: 停留場のすぐ近くにあり、地域の安全を守っています。

宇宿福祉館: 地域住民のための福祉施設。

公園: 規模は小さいですが、児童公園などが住宅地の中に点在しています。

住宅地: 停留所の東西南北に広範囲にわたってマンションや戸建て住宅が広がる、典型的なベッドタウンエリアです。

道路・交通:

停留場のある**県道217号線(産業道路)**は、鹿児島市南部と市街地を結ぶ主要な幹線道路であり、終日交通量が多いです。特に朝夕のラッシュ時は渋滞が発生しやすい区間でもあります。

停留場付近には「脇田」交差点があり、信号待ちの車両などで混雑することがあります。

7. 利用状況:地域住民の生活に不可欠なインフラ

脇田停留場は、まさに地域住民の生活インフラとして機能しています。

乗降客数: 鹿児島市電の中でも乗降客数は多い部類に入ります。特にイオン鹿児島鴨池店へのアクセス、通勤・通学利用がその数を押し上げています。

利用者の属性:

通勤・通学客: 朝夕のラッシュ時の主体。市街地方面へ向かう人、また市街地から南部の職場や学校へ向かう人、両方の流れがあります。周辺の高校生、中学生の利用が特に目立ちます。

買い物客: 日中を中心に、イオン鹿児島鴨池店や周辺の店舗へ向かう利用者が多いです。特に高齢者にとっては、重い荷物を持たずに移動できる市電は貴重な足となっています。

通院客: 周辺のクリニックやリハビリテーションセンターへの通院目的での利用も見られます。

その他: 周辺住民の日常的な移動手段として幅広く利用されています。

時間帯による変化:

朝ラッシュ (7時台~8時台): 通勤・通学客でホームも車内も非常に混雑します。特に鹿児島駅前方面行きが混み合います。

日中 (9時台~16時台): 買い物客や高齢者の利用が中心となり、比較的落ち着いています。

夕ラッシュ (17時台~19時台): 通勤・通学帰りの客で再び混雑します。谷山方面行きが混み合います。

夜間: 利用者は減少し、閑散としてきます。

脇田停留場は、観光客よりも地元住民の利用が主体であり、まさに市民の「足」としての役割を日々果たしている停留場と言えます。

8. 停留場の特徴・魅力・課題

脇田停留場は、生活に密着した利便性を持つ一方で、都市部の停留場ならではの課題も抱えています。

魅力・利点:

高い生活利便性: 大型商業施設、学校、医療機関など、生活に必要な施設が周辺に揃っており、それらへのアクセスが容易です。

バスとの連携: 停留場周辺に多くのバス路線が発着しており、市電とバスを組み合わせることで、さらに広範囲への移動が可能になります。

地域への密着度: 長年にわたり地域住民の移動を支え、暮らしに欠かせない存在となっています。

センターポール化による景観向上: 歩道空間が広がり、すっきりとした都市景観に貢献しています。

課題:

ラッシュ時の混雑: 特に朝夕の通勤・通学時間帯のホームおよび車内の混雑は大きな課題です。連接車両の導入が進んでいますが、それでも積み残しが発生することもあります。

ホーム幅: センターポール化で改善されたとはいえ、ラッシュ時の乗降客数を考えると、ホーム幅が十分とは言えない場面もあります。

悪天候時の待機: 上屋がホーム全体を覆っていないため、雨や強風の際には待機が困難な場合があります。

バリアフリーの完全化: 低床車両対応は進んでいますが、従来型車両との混在、停留場へのアクセス経路(信号機の音響案内など)を含め、誰もがストレスなく利用できる環境への継続的な改善が求められます。

安全性: 交通量の多い県道の中央に位置するため、横断歩道を渡る際の安全性確保は常に重要です。特に子供や高齢者の利用には注意が必要です。

9. 今後の展望:持続可能な地域交通の核として

脇田停留場は、今後も鹿児島市南部の重要な交通結節点として機能し続けるでしょう。

周辺環境の変化への対応: イオン鹿児島鴨池店の動向や、周辺のマンション建設、宅地開発など、周辺環境の変化に応じて利用者のニーズも変化していく可能性があります。高齢化の進展に伴い、バリアフリー化の重要性はさらに増していくでしょう。

バスとの連携強化: よりスムーズな乗り換え案内や、待合環境の改善、共通ICカード「RapiCa」の利便性向上などを通じて、市電とバスの連携をさらに強化していくことが、地域交通全体の利便性向上に繋がります。

持続可能な交通への貢献: 環境負荷の少ない公共交通機関である路面電車は、持続可能な都市交通システムにおいて重要な役割を担います。脇田停留場も、地域住民がマイカーに過度に依存せず生活できる環境を支える核として、その価値が高まっていくと考えられます。

LRT化構想の影響: 鹿児島市が検討しているLRT化が実現した場合、運行速度の向上、定時性の確保、さらなるバリアフリー化などが期待され、脇田停留場の利便性も大きく向上する可能性があります。ただし、実現には財政面や技術面での課題も多く、長期的な視点での検討が必要です。

10. まとめ:「脇田」- 暮らしと未来をつなぐ停留場

鹿児島市電1系統「脇田」停留場は、派手さはないかもしれませんが、地域住民の日常生活に深く根ざし、その暮らしを力強く支えている、まさに「生きた」停留場です。通勤・通学の喧騒、日中の買い物客の賑わい、そして家路へと急ぐ人々の流れ。その全てを受け止めながら、谷山線の中核として、今日も走り続けています。

イオン鹿児島鴨池店という大きな磁力を持ち、学校や医療機関へのアクセス拠点でもある脇田は、利便性の高い生活エリアを形成する上で不可欠な存在です。センターポール化などの改良を経て、都市景観にも貢献する姿へと進化してきました。

一方で、ラッシュ時の混雑や完全なバリアフリー化への道筋など、課題も残されています。しかし、これからの持続可能な地域交通を考える上で、脇田停留場のような、地域に密着した公共交通の結節点が持つ役割はますます重要になっていくでしょう。

もし鹿児島市南部を訪れる機会があれば、単なる通過点としてではなく、地域の人々の暮らしのリズムを感じられる場所として、「脇田」停留場に少し目を向けてみてはいかがでしょうか。そこには、鹿児島の日常と未来をつなぐ、大切な風景が広がっています。

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