- 10月 28, 2024
1. 「笹貫」停留場とは? – 歴史と日常が息づく、住宅地の静かな拠点
鹿児島市内を南北に貫く鹿児島市電1系統(鹿児島駅前 – 谷山)。その南部に位置し、多くの市民の暮らしに寄り添うように存在する停留場が「笹貫(ささぬき)」です。隣の「脇田」停留場が大型商業施設へのアクセス拠点として賑わいを見せるのに対し、笹貫停留場はより落ち着いた住宅地の中に溶け込み、地域住民の日常的な移動を静かに支える役割を担っています。
停留場の名称「笹貫」は、古くからこの地に伝わる名刀、あるいはそれを作った刀匠に由来するとも言われ、歴史の香りを感じさせます。周囲には古くからの住宅と新しいマンションが混在し、小中学校や公園なども点在する、典型的な鹿児島市の郊外住宅地の風景が広がっています。
この停留場は、通勤・通学の時間帯には市街地へ向かう人々で一時的に活気づきますが、日中は比較的穏やかな時間が流れます。しかし、地域住民にとっては、市街地へのアクセスや日々の買い物、通院などに欠かせない、まさに生活の一部となっている重要な交通拠点です。
本稿では、この地域密着型の「笹貫」停留場に焦点を当て、その基本情報、興味深い歴史的背景、停留場の構造、周辺環境、利用実態、そして地域交通における役割と未来について、詳細に解説していきます。
2. 基本情報
所在地: 鹿児島県鹿児島市宇宿(うすき)六丁目 付近
両ホームとも、鹿児島県道217号(産業道路)の中央分離帯上に設置されています。
所属路線: 鹿児島市交通局(鹿児島市電)谷山線
停留場番号: I23 (I: 第一期線・伊敷線・谷山線系統)
構造: 相対式ホーム2面2線
道路(県道217号)の中央に、上下線それぞれ独立したホームが設置されています。
隣の停留場:
鹿児島駅前方面:脇田 (I22)
谷山方面:上塩屋 (I24)
運賃:
大人:190円(小児:90円)の均一運賃制(2024年時点)
支払い方法:
現金(降車時)
ICカード「RapiCa(ラピカ)」(乗車時・降車時にタッチ)
全国相互利用交通系ICカード(Suica, PASMO, ICOCAなど)(乗車時・降車時にタッチ)
クレジットカード等のタッチ決済(Visa, JCB, American Express, Diners Club, Discover, 銀聯)(降車時にタッチ)
一日乗車券、二日乗車券など
3. 歴史と名称の由来:谷山線の延伸と名刀「笹貫」の伝説
笹貫停留場の歴史は、鹿児島市電谷山線の南進と、この地域の変遷、そして「笹貫」という名前にまつわる物語と深く関わっています。
谷山線南進と停留場開設:
鹿児島市電谷山線が南へ延伸される中で、笹貫停留場は1960年代に開設されたと考えられます。1961年(昭和36年)に郡元から大学通(現在の工学部前付近にあったとされる)まで、そして1967年(昭和42年)に現在の終点である谷山までが開通しており、この間に設置されたと推測されます。当時は周辺が現在よりも田畑などが残る郊外であった可能性があり、市電の開通がその後の宅地化を促進したと考えられます。
「笹貫」の由来 – 名刀の伝説:
停留場の名称「笹貫」は、この地域周辺の古い地名に由来するものですが、その地名の起源として有力視されているのが、名刀**「笹貫(ささぬき)」**の伝説です。
波平(なみのひら)派の刀工: 鎌倉時代から室町時代にかけて、薩摩国(現在の鹿児島県西部)で活躍した刀工集団「波平派」は、大和伝の流れを汲む質の高い刀を作ることで知られていました。その中でも特に著名な刀工の一人が、波平**行安(ゆきやす)**です。
名刀「笹貫」: 行安が鍛えたとされる刀の中に、非常に切れ味が鋭く、竹の葉(笹)で束ねたものを斬ると、その切り口がまるで笹の葉を貫いたように滑らかであったことから「笹貫」と名付けられた、という伝説があります。この名刀は、薩摩藩主島津家の家老であった平田家の家宝として伝わり、島津義弘に献上されたとも、あるいは古くからこの地域(現在の宇宿・笹貫周辺)に住んでいた豪族が所持していたとも言われています。別の説では、刀工・平山氏がこの地で作刀し、その刀が「笹を貫く」ほどの切れ味だったことから地名になったとも伝わります。
真偽と影響: これらの伝説の真偽を正確に確かめることは困難ですが、「笹貫」という言葉が持つ切れ味や強さのイメージ、そして刀鍛冶の歴史がこの地域に存在した(あるいはそう信じられてきた)ことが、地名として定着し、停留場名にも採用された背景にあると考えられます。地域住民にとっては、歴史的な響きを持つ馴染み深い名称となっています。
地域の発展と停留場の変遷:
昭和後期から平成にかけて、笹貫停留場周辺は急速に宅地化が進みました。市電は、新しく移り住んできた住民にとって、市中心部へ向かうための不可欠な交通手段となりました。これに伴い、停留場の利用者は増加し、施設の改修や更新も行われてきました。特に、谷山線のセンターポール化は、停留場を含む周辺の景観を大きく変えました。
4. 停留場の構造と設備:住宅地に馴染む機能的なデザイン
笹貫停留場は、隣の脇田停留場と同様、センターポール化された区間に位置し、機能性を重視した都市型の停留場構造を持っています。
ホーム:
形状: 谷山方面行き、鹿児島駅前方面行きが向かい合う相対式ホーム2面2線。ホーム幅は標準的で、ラッシュ時にはやや手狭に感じることもあります。ホーム長は連接車にも対応しています。
上屋(屋根): 各ホームの中央部分に、センターポールと一体化したデザインの、比較的新しい上屋が設置されています。雨や日差しを避けるスペースを提供しますが、ホーム全体を覆うものではありません。
ベンチ: 上屋の下にベンチが設置されており、電車を待つ間の休憩場所となっています。
安全設備: ホームの両端および道路側には安全柵が設置されています。視覚障がい者向けの点字ブロックも整備されています。
床材: コンクリートまたはタイル舗装が主で、滑りにくい加工が施されています。低床車両対応のための嵩上げやスロープが設置されており、バリアフリーに配慮されています。
センターポール: 架線を中央の柱で支持する方式。これにより、歩道空間が広がり、電柱や架線による圧迫感が軽減され、すっきりとした都市景観を実現しています。停留場設備の一部は、このセンターポールに取り付けられています。
案内表示:
停留場名標識: センターポールや上屋に設置。停留場名(ひらがな・漢字・ローマ字)、停留場番号(I23)、隣の停留場名を表示。
時刻表: ホーム上屋に掲示。平日・土日祝日別。
路線図・運賃表: 市電路線図、運賃、利用方法などの案内。
周辺案内図: 近隣の主要施設やバス停への案内が簡潔に表示されていることがあります。
接近表示器: 電車の接近状況や行き先をリアルタイムで表示する電光掲示板またはLCDディスプレイが設置されており、待ち時間の目安が分かります。
バリアフリー:
ホームへのアクセス: 道路中央の停留場へは、信号機付きの横断歩道を渡ります。歩行者用信号の押しボタンや、音響信号の有無などがアクセシビリティに関わります。
ホームと車両の段差・隙間: 低床車両(ユートラムシリーズ)とホームの嵩上げ部分では、段差・隙間が最小限になるように設計されており、車椅子やベビーカーでの乗降が比較的容易です。ただし、従来型車両も運行されているため、注意が必要です。
点字ブロック: ホーム上に敷設されていますが、停留場への誘導を含めた継続的な改善が望まれます。
その他設備:
照明設備: 夜間も安全に利用できるよう、ホームやセンターポールに照明が設置されています。
広告: 停留場設備の一部に広告スペースがあります。
5. 運行状況と時刻表:市街地と谷山を結ぶ1系統
笹貫停留場には、鹿児島市電1系統のみが運行されています。
運行系統: 1系統(鹿児島駅前 – 谷山)
鹿児島市の主要拠点(鹿児島駅、天文館、鹿児島中央駅など)と南部の谷山地区を結ぶ、市電の基幹路線です。
運行頻度:
ピーク時(朝夕ラッシュ時): 約5~7分間隔。通勤・通学客で混雑します。
日中: 約7~10分間隔。
早朝・深夜: 運行間隔は長くなります。
始発・終電 (目安):
谷山方面: 6時台前半 ~ 23時過ぎ
鹿児島駅前方面: 6時頃 ~ 22時台後半
※最新かつ正確な時刻は、鹿児島市交通局の公式情報をご確認ください。
所要時間 (目安): 道路状況により変動。
脇田まで: 約2分
上塩屋まで: 約2分
谷山まで: 約6~8分
郡元まで: 約7~9分
鹿児島中央駅前まで: 約17~20分
天文館通まで: 約22~27分
鹿児島駅前まで: 約27~32分
乗換情報:
市バス・各社バス: 停留場近くの県道217号沿いに**「笹貫」バス停**があります。
鹿児島市営バス、鹿児島交通、南国交通などが発着。
市電1系統と並行する区間が多いですが、バス独自の路線(中山方面、皇徳寺方面など)への乗り換えが可能です。
市電とバスの乗り継ぎ割引(RapiCa利用時)が適用されます。
JR指宿枕崎線: JR笹貫駅が停留場の西側、徒歩約7~10分の距離にあります。
市電とJRは直接接続しておらず、乗り換えには少し歩く必要があります。屋根のない区間がほとんどのため、雨天時は不便を感じるかもしれません。
市電の運行頻度が高いのに対し、JR指宿枕崎線(特に笹貫駅に停車する普通列車)の運行本数は限られているため、乗り換えの際は時刻表の確認が必須です。
料金体系も異なるため、ICカードの利用方法(改札処理)なども注意が必要です。
市街地中心部(鹿児島中央駅など)へは市電の方が便利な場合が多いですが、指宿方面やJR線への乗り継ぎにはJR笹貫駅が選択肢となります。
6. 周辺情報とアクセス:落ち着いた住宅地と生活施設
笹貫停留場の周辺は、主に閑静な住宅地が広がっていますが、生活に必要な施設も点在しています。
住宅: マンション、アパート、戸建て住宅が混在する典型的なベッドタウンです。新しい住宅も増えていますが、昔ながらの家並みも残っています。
商業施設:
隣の脇田にあるイオンのような大型商業施設はありませんが、スーパーマーケット(タイヨー 笹貫店など)、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが点在し、日常の買い物には困りません。
個人経営の飲食店や商店も散見されます。
学校:
鹿児島市立東谷山小学校: 停留場の南側に位置します。
鹿児島市立東谷山中学校: 小学校に隣接。
これらの学校への通学路にもなっており、登下校時間帯は生徒たちの姿が多く見られます。
医療機関: 内科、歯科などの個人クリニックが住宅地の中に点在しています。
公共施設・その他:
笹貫公園: 停留場の北西側にある比較的大きな公園。遊具や広場があり、地域住民の憩いの場となっています。
金融機関: 銀行の支店やATMが利用可能です。
神社仏閣: 地域に根ざした小さな神社などが点在している可能性もあります。
JR笹貫駅: 停留場の西側、徒歩圏内に位置します。周辺は市電沿線とはまた少し異なる雰囲気の住宅地が広がっています。
道路・交通:
停留場のある**県道217号線(産業道路)**は交通量が多く、特に朝夕は渋滞しやすいです。
周辺の道路は、住宅地内の比較的狭い道も多く、歩行者や自転車との錯綜に注意が必要です。
景観: 基本的には住宅地と道路が中心の都市郊外の風景ですが、遠くに山並みを望むこともできます。桜島は、建物の隙間などから見える程度かもしれません。脇田停留場ほどの開放感はありませんが、落ち着いた街並みが広がります。
7. 利用状況:地域住民の足としての堅実な役割
笹貫停留場は、まさに地域住民の生活を支えるインフラとして、日々堅実にその役割を果たしています。
乗降客数: 谷山線の中では平均的な乗降客数と推測されます。脇田や郡元、谷山といった拠点駅に比べると少ないですが、周辺人口を考えると安定した利用があると考えられます。
利用者の属性:
通勤・通学客: 朝夕の利用者の主体。市街地の職場や学校へ向かう住民、周辺の東谷山小・中学校へ通う生徒など。
地域住民: 日中の買い物、通院、所用などで利用する高齢者や主婦層。
JR笹貫駅への乗り換え客: 一定数いると考えられますが、距離があるため限定的かもしれません。バスを利用する人も多いと推測されます。
時間帯による変化:
朝ラッシュ: 鹿児島駅前方面行きが学生や通勤客で混み合います。
日中: 比較的落ち着いていますが、高齢者などの利用がコンスタントに見られます。
夕ラッシュ: 谷山方面行きが帰宅客で混雑します。
利用目的: 通勤、通学、買い物、通院といった日常生活に根差した利用がほとんどを占めており、観光目的での利用は少ないと考えられます。
8. 停留場の特徴・魅力・課題
笹貫停留場は、地域密着型ならではの特徴と、それに伴う課題を併せ持っています。
魅力・利点:
住宅地への近さ: 周辺住民にとっては、自宅から徒歩圏内で利用できる便利な公共交通機関です。
生活利便性: スーパーや学校などが近く、日常生活を送る上で便利な立地です。
バス・JRとの接続: バス停が近く、JR駅へも徒歩圏内であるため、他の交通機関への乗り換えも可能です。
落ち着いた環境: 脇田のような大型商業施設の喧騒から離れ、比較的落ち着いた雰囲気の中で電車を待つことができます。
歴史的な響き: 「笹貫」という名称が、地域の歴史や文化への興味をかき立てます。
課題:
ラッシュ時の混雑: 谷山線の主要な停留場の一つであり、ラッシュ時の混雑は避けられません。
JR駅との乗り換え: JR笹貫駅との乗り換えは、距離があり、屋根もないため、利便性が高いとは言えません。案内表示などの改善も望まれます。
バリアフリーの完全性: 低床車両対応は進んでいますが、ホームへのアクセス経路を含め、高齢者や障がいを持つ方にとって完全にストレスフリーとは言えない部分も残っています。
設備のシンプルさ: 待合スペースや上屋の範囲は限定的で、荒天時の待機には不便を感じることがあります。
安全性: 交通量の多い道路中央という構造上、横断時の安全確保は常に課題です。
9. 「笹貫」という名称が地域に与えるもの
「笹貫」という名称は、単なる識別のための記号ではありません。
地域アイデンティティ: 伝説と結びつくこの名前は、地域住民にとって、自分たちの住む場所への愛着や誇りを感じさせる要素の一つとなり得ます。
歴史への窓: 日常的に目にする停留場名が、鎌倉・室町時代の刀工や名刀の物語に繋がっていることは、地域の歴史への興味関心を喚起するきっかけになります。
物語性: 単なる地名以上の「物語」を持つことは、地域に独自の魅力を与えます。
停留場名が、直接的に刀の「笹貫」を指しているという公式な記録はないかもしれませんが、地域に古くから伝わる名称であり、その背景にある物語と共に地域の一部として受け入れられていることは間違いありません。
10. 今後の展望:安定した地域交通の担い手として
笹貫停留場は、今後も大きな変化はないかもしれませんが、地域社会の変化に対応しながら、その役割を果たし続けるでしょう。
高齢化への対応: 地域住民の高齢化が進む中で、安全で利用しやすい公共交通機関としての市電、そして笹貫停留場の重要性は増していくと考えられます。バリアフリー化のさらなる推進が期待されます。
周辺開発との連携: 周辺で新たなマンション建設などがあれば、利用者の増加も見込まれます。それに伴う混雑緩和策や利便性向上の必要性が出てくるかもしれません。
JR・バスとの連携強化: 利用者のニーズに応じた、JR笹貫駅や周辺バス路線との連携強化策(案内表示の充実、乗り換えしやすいダイヤ設定など)が検討される可能性があります。
持続可能な交通: 環境負荷の少ない市電の役割は、今後ますます重要になります。笹貫停留場も、地域住民の持続可能な移動手段を支える拠点として機能し続けるでしょう。
LRT化構想: もしLRT化が実現すれば、定時性向上や快適性向上により、笹貫停留場の利便性も向上する可能性があります。
11. まとめ:「笹貫」- 街の記憶を乗せて走る、日常の停留場
鹿児島市電1系統「笹貫」停留場は、派手な観光スポットへの玄関口ではありませんが、鹿児島市南部の住宅地にしっかりと根を下ろし、地域住民の日々の暮らしを支える、なくてはならない存在です。その名称には、名刀の伝説というロマンが秘められており、街の記憶を今に伝えています。
センターポール化された近代的な姿を見せながらも、周辺には落ち着いた住宅地の風景が広がり、通勤・通学、買い物、通院と、人々の様々な日常がこの停留場を行き交います。JR駅やバス路線との接続点でもあり、地域交通のネットワークを形成する上でも重要な役割を担っています。
ラッシュ時の混雑やバリアフリーの課題はありますが、環境に優しく、地域に密着した公共交通機関としての価値は、今後さらに高まっていくでしょう。
もし谷山線に乗車する機会があれば、ぜひ「笹貫」停留場とその周辺の雰囲気に触れてみてください。そこには、鹿児島のもう一つの顔、人々の穏やかな日常と、歴史の息吹が感じられるはずです。名刀の伝説に思いを馳せながら、路面電車に揺られるのもまた、一興かもしれません。