商業高校前

熊本市の中心部から東部へ延びる熊本市電健軍線。その中間付近に位置し、日々の市民の足として機能しているのが「商業高校前(しょうぎょうこうこうまえ)」電停です。B系統(上熊本 – 健軍町)の電車が停車し、周辺住民や学生、通勤客に利用されています。しかし、その名称とは裏腹に、現在「商業高校」はこの場所には存在しません。本稿では、この「商業高校前」電停について、その基本情報から歴史的背景、構造、周辺環境、利用状況、そして名前にまつわる事情まで、詳細に掘り下げて解説します。

1. 基本情報と路線上の位置づけ

  • 電停番号: 16
  • 所在地: 熊本県熊本市中央区神水(くわみず)一丁目付近
    • 熊本県道28号熊本高森線(通称:電車通り)の中央分離帯部分に設置されています。
  • 所属路線: 熊本市交通局 市電健軍線
  • 停車系統: B系統(上熊本 – 健軍町)
    • A系統(田崎橋 – 健軍町)は停車しません。B系統専用の電停です。
  • 隣の電停:
    • 健軍町方面:市立体育館前 (17)
    • 上熊本方面:八丁馬場 (15)
  • 構造: 相対式ホーム2面2線(道路の中央に上下線それぞれのホームが向かい合って設置されている形式)
  • 座標: 北緯32度47分41.5秒 東経130度44分18.4秒(おおよその値)

2. 電停名の由来と歴史的背景

現在の電停名「商業高校前」は、その名の通り、かつてこの電停の最寄りに熊本市立商業高等学校が存在したことに由来します。しかし、この事実は、電停の現状を理解する上で非常に重要なポイントとなります。

  • 熊本市立商業高等学校の存在:
    • 熊本市立商業高等学校は、長い歴史を持つ商業系の専門高校でした。1963年(昭和38年)に熊本市千葉城町(現在の熊本市役所近く)から、この電停近くの熊本市神水一丁目に移転してきました。
    • 移転後、地域の発展と共に多くの生徒が学び、卒業生は地元の経済界をはじめ多方面で活躍しました。当時の生徒たちにとって、この市電の電停は通学に不可欠な交通手段でした。
  • 電停の設置と「商業高校前」への改称:
    • 熊本市電健軍線が水前寺公園前から健軍町まで延伸開業したのは1945年(昭和20年)ですが、当初この場所に電停があったか、あったとして何という名称だったかの詳細は不明瞭な点があります(古い資料では「神水」などの名称だった可能性も指摘されます)。
    • 熊本市立商業高等学校が1963年に移転してきた後、利便性向上のため、あるいは既存の電停名が変更され、「商業高校前」という名称になったと考えられます。これにより、学校名を冠した、分かりやすい目印としての役割を担うようになりました。
  • 学校の移転と校名変更:
    • 時代の変化とともに、学校の教育内容や施設にも変革が求められるようになりました。熊本市立商業高等学校は、校舎の老朽化や敷地の狭隘化、そして教育課程の改編(普通科設置など総合学科への移行)といった理由から、移転・改編されることになりました。
    • 1991年(平成3年)、熊本市立商業高等学校は、熊本市大江(現在の熊本学園大学付属中学校・高等学校の隣接地)から移転してきた熊本市立高等学校(旧・必由館高等学校とは別)と統合・再編される形で、熊本市北区兎谷(現在地)へ移転しました。
    • そして、**熊本市立千原台高等学校(くまもとしりつ ちはらだい こうとうがっこう)**として新たに開校しました。旧・商業高校のあった神水一丁目の校地は完全に閉鎖され、跡地は現在、主に住宅地や一部商業施設となっています。
  • 電停名が「商業高校前」のまま残る理由:
    • 学校が移転・改称してから30年以上が経過した現在も、電停名が「商業高校前」のままなのは、一見不思議に思えます。明確な理由は公表されていませんが、いくつかの要因が推測されます。
      • 慣習と地域住民への浸透: 長年にわたり「商業高校前」として親しまれてきたため、地域住民にとってはこの名称が定着しており、変更による混乱を避けた可能性があります。
      • 代替となる明確なランドマークの不在: 周辺は主に住宅地であり、「商業高校」に代わるような、誰にでも分かりやすい公共施設や大規模な商業施設が電停至近に少ないことも一因かもしれません。
      • 変更に伴うコスト: 電停名変更には、案内表示(路線図、時刻表、車内放送など)の修正、関連システムへの登録変更など、相応の費用と手間がかかります。費用対効果を考慮し、現状維持となっている可能性も考えられます。
      • 歴史の継承: 意図的ではないかもしれませんが、かつてこの地に学び舎があったという歴史を、電停名が静かに語り継いでいる側面もあるかもしれません。

この「名前と実態のずれ」は、この電停を特徴づける最も大きなポイントであり、地元住民以外には少し分かりにくい部分となっています。

3. 電停の構造と設備

商業高校前電停は、典型的な併用軌道(道路上に線路がある)上の電停です。

  • ホーム:
    • 上熊本方面行き(西側)と健軍町方面行き(東側)の2つのホームが、県道28号線の中央分離帯を利用して設置されています。
    • ホームは低床式で、地面からわずかに高い程度の高さです。これは、後述する超低床車両に対応するため、また旧来の車両からも乗り降りしやすいように考慮されたものです。
    • ホーム幅は比較的狭く、特にラッシュ時には混雑することがあります。材質は主にコンクリートです。
  • 上屋(屋根):
    • 各ホームの一部には、雨や日差しを避けるための上屋が設置されています。ただし、ホーム全体を覆うものではなく、設置範囲は限定的です。形状はシンプルな片流れ屋根などが用いられています。
  • ベンチ:
    • 上屋の下などに、数人掛けのベンチが設置されています。電車を待つ間の休憩に利用されます。
  • 安全設備:
    • ホームの端(道路側)には、乗降客の安全を確保するための安全柵が設置されています。
    • 視覚障がい者誘導用の点字ブロックも整備されています。
  • 案内表示:
    • 各ホームには、時刻表路線図運賃表、電停名標などが設置されており、利用に必要な情報を提供しています。
    • 広告看板なども設置されています。
  • 照明:
    • 夜間の安全確保のため、ホームには照明設備が設置されています。
  • バリアフリー:
    • 熊本市電では、超低床電車(LRV)の導入と電停のバリアフリー化が進められています。商業高校前電停も、ホームと道路の間の段差はスロープ状になっている箇所があり、基本的なバリアフリー対応は試みられています。
    • しかし、ホーム自体の幅が狭いこと、屋根やベンチの設置範囲が限られていること、道路からホームへのアクセス通路の状況など、完全なバリアフリーとは言えない部分も残っています。車椅子利用者やベビーカー利用者にとっては、利用しにくい場面もあるかもしれません。
    • 熊本市交通局は、順次電停の改修を進めているため、将来的には改善される可能性があります。

4. 運行系統とダイヤ

  • 停車系統: B系統(上熊本 – 健軍町)のみが停車します。
    • 上熊本方面: 味噌天神前、交通局前、辛島町、熊本駅前、上熊本へ向かいます。辛島町でA系統(田崎橋方面)に乗り換え可能です。
    • 健軍町方面: 市立体育館前、動植物園入口、健軍校前、健軍町(終点)へ向かいます。
  • 運行頻度:
    • B系統は、日中はおおむね10~15分間隔程度で運行されています。
    • 朝夕のラッシュ時は若干増便され、より短い間隔で運行されます。
    • 土曜・休日は平日よりもやや運行本数が少なくなる傾向があります。
  • 所要時間(目安):
    • 辛島町(中心市街地):約15~20分
    • 熊本駅前:約25~30分
    • 健軍町(終点):約10~15分
    • ※上記は平常時の目安であり、交通状況により変動します。
  • 始発・最終:
    • 方面によって異なりますが、おおむね午前6時台から午後11時台くらいまで運行されています(詳細は熊本市交通局の時刻表をご確認ください)。

5. 利用状況と乗降客

  • 主な利用者:
    • 地域住民: 電停周辺(神水、神水本町、湖東、八丁馬場など)に住む人々の日常の足として利用されています。通勤、通学、買い物、通院など目的は様々です。
    • 熊本市立千原台高等学校の生徒・教職員: 電停名こそ「商業高校前」ですが、現在移転した千原台高校の最寄り電停の一つではあります。ただし、千原台高校の正門までは直線距離でも約1.5kmほどあり、徒歩で20分程度かかるため、「目の前」というわけではありません。高校生の利用も見られますが、後述するバス利用や、他の電停(市立体育館前や八丁馬場)を利用する生徒もいると考えられます。
    • 周辺事業所への通勤者: 周辺には中小の事業所や店舗も点在しており、そこへ通勤する人々にも利用されています。
  • 乗降客数:
    • 正確なデータは公表されていませんが、熊本市電の他の主要電停(辛島町、水道町、熊本駅前など)と比較すると、乗降客数は中程度と考えられます。
    • 住宅街の中にある電停として、安定した利用がある一方で、爆発的に多いわけではない、という位置づけでしょう。
  • 時間帯による変化:
    • 朝夕の通勤・通学時間帯は、学生や社会人の利用で混雑します。特に朝は上熊本方面(中心部・熊本駅方面)へ向かう電車が、夕方は健軍町方面(住宅地へ帰る)の電車が混み合います。
    • 昼間は比較的落ち着いていますが、買い物や通院などで利用する地域住民の姿が見られます。

6. 電停周辺の地理と主要施設

商業高校前電停周辺は、熊本市東部の住宅地が広がるエリアです。

  • 地理・道路:
    • 電停が設置されている県道28号線(電車通り)は、熊本市中心部と東部を結ぶ主要幹線道路の一つであり、交通量は多いです。
    • 周辺は概ね平坦な地形で、電車通りから一歩入ると、戸建て住宅やアパート・マンションが建ち並ぶ閑静な住宅街が広がっています。
  • 教育機関:
    • 熊本市立千原台高等学校(旧・商業高校跡地からは移転): 上述の通り、電停名の由来となった学校ですが、現在は北区兎谷に移転しています。旧校地跡は主に住宅地等になっています。電停から現校舎へは距離があります。
    • 熊本市立湖東中学校: 電停から南東へ徒歩10分程度の場所にあります。
    • 熊本市立泉ヶ丘小学校: 電停から南へ徒歩10分程度の場所にあります。
  • 商業施設:
    • スーパーマーケット:
      • ゆめマート 長嶺店(電停からやや北東、徒歩10分強)
      • サンリブ健軍(市立体育館前電停の方が近いが、徒歩圏内)
    • コンビニエンスストア: 電車通り沿いや周辺に複数店舗(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなど)が点在しています。
    • 飲食店: 電車通り沿いを中心に、ファミリーレストラン、ラーメン店、カフェ、居酒屋などが点在しています。住宅街の中にも小規模な個人経営の店舗が見られます。
    • その他: ドラッグストア(ドラッグイレブンなど)、衣料品店(ユニクロ熊本八丁馬場店など)、書店、酒店などが周辺にあります。
  • 医療機関:
    • 内科、外科、眼科、皮膚科などのクリニックや診療所、歯科医院が周辺に複数存在し、地域住民の医療を支えています。
  • 金融機関:
    • 肥後銀行 神水支店(電停から少し健軍方面へ)
    • 熊本銀行 神水支店(肥後銀行神水支店近く)
    • 熊本第一信用金庫 神水支店(電停から少し上熊本方面へ)
    • 郵便局(熊本神水郵便局など)や、コンビニATMも利用可能です。
  • 公共施設:
    • 目立った大きな公共施設は電停至近には少ないですが、少し足を延ばせば熊本県庁(隣の市立体育館前電停が最寄り)や、地域コミュニティセンターなどがあります。
    • 小さな公園は住宅街の中に点在しています。
  • 交通結節点:
    • バス停: 電停のすぐ近く(道路の歩道上)に、産交バス熊本都市バスの「商業高校前」バス停があります。市電とバスの乗り継ぎが可能です。中心部方面、健軍・木山方面、東バイパス方面、熊本駅方面など、多様な路線のバスが発着しており、市電を補完する役割を果たしています。
    • タクシー乗り場:常設のタクシー乗り場はありませんが、電車通りはタクシーの通行も多いため、流しのタクシーを比較的捕まえやすいです。
    • 駐輪場・駐車場:電停に付属する駐輪場や駐車場はありません。周辺の店舗等のものを利用するか、路上駐輪・駐車にならないよう注意が必要です。

7. 電停利用の利便性と課題

  • 利便性:
    • 中心部・健軍方面へのアクセス: B系統を利用することで、乗り換えなしで上熊本や健軍町へ、辛島町での乗り換えで熊本駅や田崎橋方面へアクセスでき、利便性は高いです。
    • バスとの連携: 電停と同名のバス停が至近にあり、バス路線網との乗り継ぎが容易です。これにより、市電だけではカバーできないエリアへのアクセスも可能になります。
    • 分かりやすさ: 幹線道路沿いにあり、場所は比較的わかりやすいです。
  • 課題:
    • 電停名の現状: 前述の通り、「商業高校」は現存しないため、初めて訪れる人や土地勘のない人にとっては、名称が混乱を招く可能性があります。特に、現在の千原台高校へのアクセスを期待して下車すると、相当な距離があるため注意が必要です。
    • バリアフリー: ホーム幅の狭さや、屋根・ベンチの設置範囲など、バリアフリー設備が十分とは言えない側面があります。今後の改修が期待されます。
    • ラッシュ時の混雑: ホームが狭いため、朝夕のラッシュ時には電車を待つ人で混雑し、乗り降りに時間がかかることがあります。
    • A系統が停車しない: 中心部方面へはB系統のみとなるため、A系統沿線(呉服町、河原町など)へ直接行くことはできません(辛島町での乗り換えが必要)。

8. 今後の展望(推測)

  • バリアフリー化の推進: 熊本市電全体で進められているバリアフリー化の一環として、将来的にはホームの拡幅やスロープの改善、上屋の延伸などが実施される可能性があります。超低床車両の導入は進んでいますが、電停側の対応も重要です。
  • 電停名の変更可能性: 学校移転から長期間経過しており、利用者からの要望や分かりやすさの観点から、将来的には電停名が変更される可能性もゼロではありません。ただし、上述の通り変更にはコストがかかることや、地域での定着度を考えると、現状維持が続く可能性も高いです。もし変更される場合は、周辺の地名(神水など)や、新たな分かりやすい目印(もしできれば)に基づいた名称になるかもしれません。
  • 周辺環境の変化: 周辺は成熟した住宅地ですが、今後マンション建設や商業施設の再開発などがあれば、利用客層や乗降客数に変化が生じる可能性があります。
  • LRTとしての進化: 熊本市では市電をLRT(次世代型路面電車システム)としてさらに進化させる構想もあります。その中で、電停の機能向上や定時性確保などの取り組みが進めば、商業高校前電停の利便性もさらに向上するでしょう。

9. まとめ

熊本市電B系統の「商業高校前」電停は、その名称に歴史の移り変わりを刻みながら、今日も地域住民の生活を支える重要な交通拠点です。かつての学び舎(熊本市立商業高等学校)は移転しましたが、電停名は残り、周辺の住宅街と中心部や健軍方面を結んでいます。

バス路線との接続も良好で利便性は高い一方、電停名の現状やバリアフリー面での課題も抱えています。今後、熊本市電全体の進化とともに、これらの課題が改善され、より安全で快適な電停へと発展していくことが期待されます。もしこの電停を利用する機会があれば、その名前に秘められた歴史に少し思いを馳せてみるのも面白いかもしれません。

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